ばうんてぃえぴそ~ど

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(100)

「ここは…………?」 目が覚めて初めに映ったのは、ゆっくりと回転する細い風車のような物。 良く見ると、それは天井扇(シーリングファン)だった。つまり、 「宿の…………天井?」 ぱちくりと瞬きをしながら、マリーナ・テレザ・ウィンハルトは天井を眺めている。 …

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(99)

一夜が空けた。 それは頭に悪夢のようなとついても不思議はない、いや、むしろ悪夢そのものと言っても良いだろうか。 ともあれ、「これですべて終わったのだ」と、マリーナ・テレザ・ウィンハルトは思った。 窓辺から光射す、ベッドの上で。 あの時、咄嗟に彼…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(98)

独り、ただ独り、ずっと独りでこの闇の中を生きてきた―――― 物心付いたときから、ずっと―――― 「お願いエレジア…………あたくしに、あの子を救う力を!」 祈るように、振り絞った言葉を吐き出すマリーナ。 その祈りを『杖』――――あるいは刀身――――に込め、握り締め…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(97)

「太陽神? フィナクス?」 小首を傾げるフィオ。 「そんな大昔に絶滅した生き物が、何故砂の中から現れるね?」 『先ほど、「砂」という言葉には色々な意味があると言いましたよねぇ』 「それが?」 『その「砂」で表現されるモノの中には「時間」という概…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(96)

何かが砕ける音。 それが、鼓膜を引き裂くような共鳴を起こす。 「マリーナさん!」 思わずフィオが叫んだ。 頭上から、パラパラと砂混じりの破片が落ちる。 見上げるとそこには、 鼻先から顎までを綺麗に失った―――― ――――巨竜の頭があった。 「なっ!?」 『…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(95)

砂の渦は流れが激しく、あと一歩遅かったなら立ちどころに飲み込まれていたことだろうか。 その想像がよぎった時、フィオは全身から血の気が退いていくのを覚えた。 それをただの意思のみで引き起こした幼子を、文字通りバケモノを見るような目で凝視する彼…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(94)

風が舞った。 厚い石壁に覆われた暗闇の中で。 少女は深く瞳を閉じ、一つの抽象的な像を頭に描く。 それは――――天上に浮かぶ銀の方舟。 方舟とは、古の昔に『天の結界』を超えて宙(そら)の海を航(わた)ったという伝説上の乗り物のこと。 その方舟が意味する記…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(93)

「な、何が起こってるね?」 周囲の異変に慌てふためく東方娘。 「冥府の門…………」 「何のことね?」 「…………そういう事でしたの……」 「だから、どういうことね?」 「博士は『あの子の力とピラミッドが関係ある』とおっしゃいましたわ。恐らくは、この建物こ…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(92)

少女が出逢ったその子供は、しばし小首を傾げていた。 その仕草があまりにも愛らしく、彼女は思わず何かに突き動かされるようにその子を抱きしめていた。 少女曰わく、 「ぐふふ、あたいはショタもいける口デスよ」と―――― 翼がはためいた。 金色の光が粒子を…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(91)

曰わく、かつて大陸中央で栄えた古代シュマエルの王は、世界の根源に至る叡智を閉じ込めた次元の扉を開ける事が出来ると云われる『精神世界の鍵』を持っていた。 曰わく、極東にある伝説の島に万物を統べる神の秘宝が眠りし倉があり、一度取り出せば世界を自…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(90)

『そう、この中で魔道学が必要となる唯一の要素、それは傀儡巨兵(ゴーレム)の操作法、つまりは精神制御の技術ですよぉ』 傀儡巨兵(ゴーレム)――――それは、創造主(マスター)の命令に従う意思を持った人形。 『魔道学は心理、思想、信仰などの精神世界の鍵(サイ…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(89)

少女は今し方聞いた博士の言葉を反芻する。 確か、博士はこう言いましたわね。 錬金学や風水学でも可能だと。 同じ「現象」を起こすのに必ずしも同じ「技術」を用いる必要はなく、それぞれの「法則」に基づいてその振る舞いを生じさせる「理論」を構築する事…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(88)

ふと見上げる彼女の頭上に新たな疑問符が浮び上がったその時、 『あぁ、あの子が件(くだん)の「魔女」ですかぁ?』 いつもの間延びした声で博士が話し掛けた。脳内で……… 「ええ、そうですけど」 『なるほどなるほどぉ~』 「何が『なるほど』なんですの?」 …

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(87)

「えっ!?」 「あいやっ!」 「あれー?」 "三つの声"が同時に漏れた。 時同じくして、轟音が響く。 文字通り鉄壁の守りに阻まれ、砂鉄の剣が見事に砕け散った音だ。 「なにゆえ?」と首を傾げる魔女(ユノ)。 「まさか、この法衣(ローブ)……」 『あ、気付い…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(86)

砂上を覆い渦巻く煙幕。 その中央にぽっかりと円い空洞が出来上がっていた。 その更に中心に立つブロンドの少女は強い意志をサファイアの瞳に宿していた。 その隣で紫の髪を後ろで束ねた東方娘が、不思議そうに彼女と、周りを囲む砂煙を見比べている。 「マ…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(85)

暗く冷たい空間に、少女が独り取り残されていた。 いつからそこに居たのか記憶にはない。 ただ、彼女は孤独を噛み締めていた。 不安からか、気がついたら歩き出していた。 訳も分からぬまま彷徨うこと二分と四十秒足らず。 ふと、紫色した少女の髪の毛が一…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(84)

『けど「ゲッソリーニ」は何度も観てるから、最近話題の「ルドラー最期の24時」なんてどうかしら?』 懐中伝話(モバイルトーカー)の立体映像(ディスプレイ)から、思い出したかのように『先生』が提案した。 「えー……あのタイトルからして何かのパクリみたい…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(83)

『別に貴女の師匠になった覚えはないけど?』 懐中伝話(モバイルトーカー)から顔だけを浮き出して、金髪の女は嘆息混じりに口を開く。立体通話(ホログラフォン)という『技術』で、この時代ではまず実現不可能とされている代物だ。 「……只今絶賛失踪中のウチ…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(82)

砂漠の町ルアムシエスの夜は長い。 大通りに軒を並べる店の内、殆どが既に暖簾を下げている中、夜更けまで灯りが絶えない店が数軒ある。 その内の一つ、パスタが自慢の大衆食堂の一席で、自らを預言者と称する少女セレーナは四角垂型の山盛りイカ墨パスタを…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(81)

それは、砂粒だった。 ぱらぱらと銀の刃が突き刺さったユノの懐から、まるで雫のように零れ落ちていた。 震える白刃から、軋むような音が幽かに漏れる。 「ユノ!!!」 マリーナの悲鳴にも似た叫び声が闇の奥へと響き渡る。 そして、半ば睨むような目つきで東…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(80)

「何ですの、今の感じは?」 得体の知れない感覚がマリーナを襲う。 一瞬、何かが身体中を這いずるような気持ち悪さを覚えたかと思った矢先に、今度は周囲を密度の厚い空気の壁に覆われたような閉塞感に支配される。 「何か、妙な気の流れを感じるね……」 隣…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(79)

「来ましたわ!」 「はいですよぉ」 冷たく静かな闇に満ちた空間に、ぽつりと灯る小さな明かり。そこに佇む影二つ。それらは、示し合わせるように頷き合っている。 振り子のように揺れる糸の先には、小さな鐘鈴(ベル)が綺麗な音で鳴いていた。少し早い秋の…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(78)

. 「あいや~これは…………妖怪変化の類か、あるいは魔術とかいうヤツでこの化物どもを生み出したか?」 そう宣う彼女達の眼前には、砂の化物(ヒトガタ)が群れを為していた。 そう、つい先刻まで巨大な砂塊だったそれが分裂して生まれた在らざる命(モノ)。 それ…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(77)

「ここの壁…………」と、辺りを見渡すマリーナの口から零れる幽かなつぶやき。 「ん、壁が如何したね?」 「ええ、ちょっと……なんて言いますか、少し傾いているような気がしますの」 マリーナの言う通り、ほんの僅かだが、四方を取り囲む石壁が内側に傾いていた…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(76)

. 「ぱおぺぇ?」 東方の固有言語だろう。 あまり聞き慣れない言葉ではあったが、マリーナには心当たりがあった。 パオぺー――たしか『真人(ジェンレン)』とかいう東方の学者が作った武器の類だったハズですわ………… 随分前に錬金学の講義を見学した際、担当の…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(75)

. 「ママ、こんどはこれー!」 無邪気な『魔女』の声に呼応するように砂地が激しく隆起し、そこから無数の砂柱が噴水のように勢い良く飛び出した。 「にゃー、やっちゃえー!」 命令を受けた砂柱が滑らかにうねり、触手のような動きでマリーナに迫る。 「ひ…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(74)

. だがそれは、ほんの一瞬のことだった。 すぐに目を覚ますと、少女はしばらくぼんやりと眺めていたが、やがて目の前の世界が上下逆さになっていたことに気が付く。 慌てて身体を横に倒し、一息ついてから立ち上がろうとして――不意に視界が真っ白になった。 …

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(73)

. あるいは火の鳥が如く、あるいは月の女神が如く、黄金色の翼をはためかせて小さな『魔女』が虚空を舞う。 「ママぁーみてみて、カッコいいでしょ?」 「え、ええ……」 マリーナは『魔女』の問いかけに反射的に相槌を打ちながら、半ば茫然と頭上を見上げてい…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(72)

. 陽と陽―――― 同じ属性を持つ物同士は、それ故に拒絶し、反発し合う。 場や方位もまた然り。陽の気に満たされた空間で陽の力を加える事は出来ず、陽の力場へ力を放てば、そこに斥力が働き弾かれてしまう。 「それが、風水学の解く力の法則よ」 そう言うと、…

ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(71)

. 気がつくと、そこにはただ闇が在った。 光も音もなく、恐怖という感情が世界を満たしていた。 それはどうしようもない絶望感からではない。 むしろ全能感にも似た絶対的希望に溢れていたが、少女の心には一抹の不安が顔を覗かせていた。 やがて霧のように…