ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(85)

 

  暗く冷たい空間に、少女が独り取り残されていた。
  いつからそこに居たのか記憶にはない。
  ただ、彼女は孤独を噛み締めていた。
  不安からか、気がついたら歩き出していた。
  訳も分からぬまま彷徨うこと二分と四十秒足らず。
  ふと、紫色した少女の髪の毛が一本、何かに反応したかのような動きで垂直に逆立った。
  両の眼がとらえた先には、小さな男の子が立っていた。
  人形のように愛らしいそれを眼にした途端、生気のない虚ろな瞳をした彼女の顔がまるで別人のように明るくなった。
  その間、僅か0.05秒に過ぎない。
  今のプロセスをスローモーションでもう一度見てみようとは誰も思わないだろうが、一人の少女が孤独から救われた。それは実に喜ばしいことだ。
  ただ、その少女の瞳に妖しげな光が宿っていたことを除いては。



  砂煙が辺り一面を覆い尽くし、所狭しと粉塵が舞う。
  上空で無邪気に笑う『魔女』の顔は、凶悪な好奇心に満ちていた。
  例えるならそう、子供が面白がって蟻の巣穴に水をかけている時に見せる無自覚な残忍さ。
  幼子の表情(かお)にはそれがあった。
  埃と塵が交わる砂上を見下ろして、
「もう、おしまい?」
  ユノはどこか寂しげにそう呟いた。そして、

  風の舞姫(シルフィプリーマ)

  幼子の問いに答えるような声と供に砂埃を吹き散らし、そよいだ風が舞い上がる。
「まだ、これからですわよ」
  金のソバージュを揺れるがままに、風を纏いてマリーナ・テレザ・ウィンハルトが砂塵の中からその姿を現した。



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