ばうんてぃえぴそ~どSS 砂の魔女(100)
「ここは…………?」
目が覚めて初めに映ったのは、ゆっくりと回転する細い風車のような物。
良く見ると、それは天井扇(シーリングファン)だった。つまり、
「宿の…………天井?」
ぱちくりと瞬きをしながら、マリーナ・テレザ・ウィンハルトは天井を眺めている。
ぼんやりと時が経つのも忘れて。
「うぅ~ん」
不意に隣で声が聞こえた。
何とはなしに振り向くと、すやすやと幼子が寝息を立てていた。
「ユノ…………」
自ずと、目に熱い物がこみ上げて来るのを感じつつ、彼女は幼子の頭を優しく撫でた。
階段を下りると、東方娘が二人、円テーブルを挟んで座っていた。
その片方、淡い紫の長髪で左右に団子を作って布を被せた少女が手を振る。
確かあの子、砂漠で会ったような……
二人がどういう関係なのかいまいち良く解らないマリーナだったが、取り敢えずは手を振り返すと、ユノを連れてテーブルに着く。
「おはようございますわ」
「おはよう、マリーナさん。もう起きてて大丈夫ね?」
「ええ、お陰様ですっかり良くなりましたわ」
膝の上でキョロキョロと余所見をするユノの頭を撫でながら、フィオの問いに答えるマリーナ。
「ユノたぁ~ん、無事で良かったデスよー!」
その隣ではお団子頭が、幼子の手をスリスリしていた。
「おねえちゃん、どこ行ってたの?」
「姉者という、こわーい魔物からユノたんを護るためにお外に出ていたんデスよ」
どうやら二人は知り合いのようだ。
「誰が魔物ね、誰が!」
マリーナ達の手前、迂闊に手が出せなくて、控え目に突っ込むしか出来ない姉。
「にしてもシャオ、てっきりご主人様と美系執事の歪んだ主従関係とか歪んだ兄弟愛にしか興味が無いとばかり思ってたが、いつの間にこんな可愛い魔女と仲良くなったね?」
「そりゃあ、ユノたんは将来有望な原石デスからねぇ」
「ん?」と首を捻るフィオ。
「そうですわね、ユノは原石……これから、社交界に通用する立派な淑女に育てて見せますわ!」
そこで唐突に、マリーナが握り拳を作って宣言する。が……
『残念ですが、それは無理なのですよぉ~』
「博士?」と、これまた唐突に脳へ直接語りかける少女の声。
「誰デス?」
「天の声か?」
どうやら、彼女達にも聞こえているようだ。
『おはようございます、マリーナさん。良く眠れましたかぁ?』
「ええまあ……それより、無理ってどうしてですの?」
『えっとですねぇ、まずその子はこれから学会で預かる事になったのですよ』
「『学会』で?」
『はい。ピラミッドや帽子の術式の効果があったにせよ、彼はこれまでずっと無意識下で魔道の深奥に触れていたので、そのまま放置するワケにもいかないのです。世界にどのような影響が出るかは未知数ですからねぇ』
「なるほど、それは確かに…………って、あれ?」
一瞬、納得しかけたが、ふと何か奥歯に引っかかるような違和感があった。
『だから、まず彼の触れている力を研究し、彼自身が意識してそれを制御できるように魔道学を学んでもらう事に決まりました』
「決まりましたって、いつの間に?」
『あなたが寝ている間かしらね』
不意に別の声が割って入った。
「み、ミコナさん!?」
『おはよう、マリーナ。と言っても、そっちはもうお昼を過ぎる頃かしら。で、何か他に気になる事があるみたいね?』
見透かすような女の声に、一瞬ドキリとするマリーナ。
「いえ、その先ほどから博士が、その……彼と連発しているみたいですけど……」
『ああ、そのことね』と、彼女はまるで大した事でもないように吐き捨てる。
『ユノ・モンテギールは男の子よ。彼と呼ぶのも当然ではないかしら?』
衝撃の答えが返って来た。
「ゆ、ユノが……男の子?」
『そうよ、言わなかったかしら。大陸南方では、ユノは男の名前よ』
マリーナの中で何かが崩壊する。
そんな少女の動揺など気にも留めずに彼女――ミコナ・ベルダルクは続ける。
『もっとも、彼の者という意味で使うなら性別など問題ではないわね。それよりマリーナ、戻ったら報告書を提出なさい。それをまとめるまでは、戻って来ちゃ駄目よ。では、良い報告を期待してますわ』
「え?」と一瞬戸惑うマリーナ。
「それは一体……」
どういう意味かと問いかけようとしたところへ、博士が付け加えた。
『マリーナさん、報告書は精度が高い物を求められますから、当然「魔女」をしっかり観察するんですよぉ。それが最低条件です。では、良い報告を期待してますよぉ』
甘ったるい声でそう言ったかと思えば、そこでぷつりと音が聞こえなくなった。どうやら、通信が途絶えたようだ。
「なんか一方的な会話デスたね……」
「ええ……そうですわね……」
シャオの言葉にマリーナは曖昧に返してから、ユノの方を見る。
きょとんと小首を傾げる幼子の頬を、彼女は優しく撫でた。
「ありがとう、ミコナさん……ありがとう、博士……」
マリーナの口から、自ずと感謝の言葉が漏れた。
報告書を上げるまでは戻って来るな。
その報告書は精度の高い物でなければならない。
その言葉だけを切り取ったなら、なんて薄情なと思われがちだが、学者とはどこまでも偏屈なものらしい。
その精度の高い報告書を上げるために、ユノと一緒にいなさい。と……
つまりは、そう言っているのだから。
「それはそれとしてシャオ、キサマ知ってたね? その子が男の子だって」
「もちろんデスよ」と姉の疑問に答えるや、お団子頭の妹は拳を力一杯握り締める。
「言ったじゃないデスか、ユノたんは原石と。純真無垢なショタっ子を薔薇の園で愛でながら、徐々に同じ花の色に染め上げていく……なんという背徳感! 受けでも攻めでも無限の可能性を秘めたショタこそ最強デス!」
「…………そ、そうデスか…………」
嗚呼、この愚妹はどこまでも腐って行くね……
力説する妹に、沈鬱な表情で額(ひたい)に手をやりながらポニーテールを揺らす姉。
そんな姉妹を放置して、マリーナは幼い男児を慈しむように優しく抱いた。
額(がく)の中で微笑む聖女のように――
砂の魔女――完――
目が覚めて初めに映ったのは、ゆっくりと回転する細い風車のような物。
良く見ると、それは天井扇(シーリングファン)だった。つまり、
「宿の…………天井?」
ぱちくりと瞬きをしながら、マリーナ・テレザ・ウィンハルトは天井を眺めている。
ぼんやりと時が経つのも忘れて。
「うぅ~ん」
不意に隣で声が聞こえた。
何とはなしに振り向くと、すやすやと幼子が寝息を立てていた。
「ユノ…………」
自ずと、目に熱い物がこみ上げて来るのを感じつつ、彼女は幼子の頭を優しく撫でた。
階段を下りると、東方娘が二人、円テーブルを挟んで座っていた。
その片方、淡い紫の長髪で左右に団子を作って布を被せた少女が手を振る。
確かあの子、砂漠で会ったような……
二人がどういう関係なのかいまいち良く解らないマリーナだったが、取り敢えずは手を振り返すと、ユノを連れてテーブルに着く。
「おはようございますわ」
「おはよう、マリーナさん。もう起きてて大丈夫ね?」
「ええ、お陰様ですっかり良くなりましたわ」
膝の上でキョロキョロと余所見をするユノの頭を撫でながら、フィオの問いに答えるマリーナ。
「ユノたぁ~ん、無事で良かったデスよー!」
その隣ではお団子頭が、幼子の手をスリスリしていた。
「おねえちゃん、どこ行ってたの?」
「姉者という、こわーい魔物からユノたんを護るためにお外に出ていたんデスよ」
どうやら二人は知り合いのようだ。
「誰が魔物ね、誰が!」
マリーナ達の手前、迂闊に手が出せなくて、控え目に突っ込むしか出来ない姉。
「にしてもシャオ、てっきりご主人様と美系執事の歪んだ主従関係とか歪んだ兄弟愛にしか興味が無いとばかり思ってたが、いつの間にこんな可愛い魔女と仲良くなったね?」
「そりゃあ、ユノたんは将来有望な原石デスからねぇ」
「ん?」と首を捻るフィオ。
「そうですわね、ユノは原石……これから、社交界に通用する立派な淑女に育てて見せますわ!」
そこで唐突に、マリーナが握り拳を作って宣言する。が……
『残念ですが、それは無理なのですよぉ~』
「博士?」と、これまた唐突に脳へ直接語りかける少女の声。
「誰デス?」
「天の声か?」
どうやら、彼女達にも聞こえているようだ。
『おはようございます、マリーナさん。良く眠れましたかぁ?』
「ええまあ……それより、無理ってどうしてですの?」
『えっとですねぇ、まずその子はこれから学会で預かる事になったのですよ』
「『学会』で?」
『はい。ピラミッドや帽子の術式の効果があったにせよ、彼はこれまでずっと無意識下で魔道の深奥に触れていたので、そのまま放置するワケにもいかないのです。世界にどのような影響が出るかは未知数ですからねぇ』
「なるほど、それは確かに…………って、あれ?」
一瞬、納得しかけたが、ふと何か奥歯に引っかかるような違和感があった。
『だから、まず彼の触れている力を研究し、彼自身が意識してそれを制御できるように魔道学を学んでもらう事に決まりました』
「決まりましたって、いつの間に?」
『あなたが寝ている間かしらね』
不意に別の声が割って入った。
「み、ミコナさん!?」
『おはよう、マリーナ。と言っても、そっちはもうお昼を過ぎる頃かしら。で、何か他に気になる事があるみたいね?』
見透かすような女の声に、一瞬ドキリとするマリーナ。
「いえ、その先ほどから博士が、その……彼と連発しているみたいですけど……」
『ああ、そのことね』と、彼女はまるで大した事でもないように吐き捨てる。
『ユノ・モンテギールは男の子よ。彼と呼ぶのも当然ではないかしら?』
衝撃の答えが返って来た。
「ゆ、ユノが……男の子?」
『そうよ、言わなかったかしら。大陸南方では、ユノは男の名前よ』
マリーナの中で何かが崩壊する。
そんな少女の動揺など気にも留めずに彼女――ミコナ・ベルダルクは続ける。
『もっとも、彼の者という意味で使うなら性別など問題ではないわね。それよりマリーナ、戻ったら報告書を提出なさい。それをまとめるまでは、戻って来ちゃ駄目よ。では、良い報告を期待してますわ』
「え?」と一瞬戸惑うマリーナ。
「それは一体……」
どういう意味かと問いかけようとしたところへ、博士が付け加えた。
『マリーナさん、報告書は精度が高い物を求められますから、当然「魔女」をしっかり観察するんですよぉ。それが最低条件です。では、良い報告を期待してますよぉ』
甘ったるい声でそう言ったかと思えば、そこでぷつりと音が聞こえなくなった。どうやら、通信が途絶えたようだ。
「なんか一方的な会話デスたね……」
「ええ……そうですわね……」
シャオの言葉にマリーナは曖昧に返してから、ユノの方を見る。
きょとんと小首を傾げる幼子の頬を、彼女は優しく撫でた。
「ありがとう、ミコナさん……ありがとう、博士……」
マリーナの口から、自ずと感謝の言葉が漏れた。
報告書を上げるまでは戻って来るな。
その報告書は精度の高い物でなければならない。
その言葉だけを切り取ったなら、なんて薄情なと思われがちだが、学者とはどこまでも偏屈なものらしい。
その精度の高い報告書を上げるために、ユノと一緒にいなさい。と……
つまりは、そう言っているのだから。
「それはそれとしてシャオ、キサマ知ってたね? その子が男の子だって」
「もちろんデスよ」と姉の疑問に答えるや、お団子頭の妹は拳を力一杯握り締める。
「言ったじゃないデスか、ユノたんは原石と。純真無垢なショタっ子を薔薇の園で愛でながら、徐々に同じ花の色に染め上げていく……なんという背徳感! 受けでも攻めでも無限の可能性を秘めたショタこそ最強デス!」
「…………そ、そうデスか…………」
嗚呼、この愚妹はどこまでも腐って行くね……
力説する妹に、沈鬱な表情で額(ひたい)に手をやりながらポニーテールを揺らす姉。
そんな姉妹を放置して、マリーナは幼い男児を慈しむように優しく抱いた。
額(がく)の中で微笑む聖女のように――
砂の魔女――完――