ばうんてぃえぴそ~ど――とれじゃーくえすと(その7)


 絶叫の響き渡る中、仄暗い洞窟に煌々たる光が生まれ、それもやがて闇に飲まれていった。
「く、何を勝ち誇っているのかねぃ」
 荒野の爪痕(ネィプシルファ)――そう名乗った男の台詞は、しかしどことなく余裕がなさそうに思えた。いや事実、彼は追い詰めらていた。
 切り札とも言うべき『魔術』とやらはあっさりと見破られ、あまつさえ不意を打たれる形で右腕を剣で斬り付けられて。そしてつい先刻まで、その痛みがまるで全身を焼き尽くすかのように、彼は苦悶の顔でのた打ち回っていた。眩い光を放つ洞窟の中で。
「光が完全に消えたわね。やっぱし、さっきの悲鳴に精霊石が呼応したみたいね」
「ちょっ、あんた何無視してんのねぃ!」
 男の突っ込みを冷たくあしらう様に、アリシアさんは余裕の笑みを浮かべて言う。
「相手して欲しいのなら、別に構わないけど。でも、あたし弱い者いぢめって趣味じゃないのよねー」
「な、なめやがってぃ!」
「はぁ」とアリシアさん。ため息をつきながら、
「月並みな台詞は聞き飽きてるの。あまりつまらないことに時間を割かれても癪だから、教えてあげる」
 そう言って、不敵に笑った。
「あたしの名はアリシアアリシア・レアノード。流浪の傭兵よ」
 その名を耳にした途端、男の顔色が真っ青に染まっていくのが解った。
 そう――それが彼女の本名。街中で名乗った「アリシア・レノ」というのは、周りの目を警戒して咄嗟につけた偽名だったという。ウチも宿で初めて聞いたのだが、あの時はウチがフルネームを名乗ったばかりにそれに合わせてくれてたらしい。もっとも「レノ」というのは、この地方での「レアノード」が訛った呼び方「レーノ」から来ている呼称らしいので、あながち嘘を付いていたワケでもないようだ。
 それはさておき、鋭い男は俄かに震えながら掠れた声でつぶやく。
「あ、あんたがあの…………み、みみ、百万狩り(ミリオンハンター)ねぃ!」
「違う違う、そっちじゃないから」
 手をパタパタと顔の前で振りながら、全力で否定する彼女。
「ったく、あの跳ねっ返りが。派手に暴れまくるもんだから、お陰で今じゃあたしよりも名が売れちゃって。ホント、困ったもんよねぇ」
 ウチも男も、何のことやらさっぱりな感じで首を傾げる。
 しかし、彼女はどこか愉しげな顔をしていた。少なくとも、ウチの眼にはそう映っていた。
 それはそうと、
アリシアさん、さっき『セカンド』とか何とか言ってたが?」
「あ、それはね」と彼女、右手の得物――銃身型の鞘から抜いた両刃の長剣――をかざしてみせる。
「この子『仕込み銃剣(タネガシマ)』っていう銘なんだけど、実は二代目なのよねぇ」
「二代目?」
「そ。初代(オリジン)は、娘にあげちゃったから」
「そうなのか……」と言いかけて、ふと何かに引っ掛かった。
 娘?
 そういえば「娘がいる」とか言ってたような気がしたが……生き別れになる際に、形見としてあげたとかだろうか?
 ここで「娘さんは何してる人?」と訊いて「同業者よ」なんて答えが返ってきても、それはそれで嫌か。
「その話は置いといて」とアリシアさんは、剣の切っ先を鋭い男に向けると高らかとこう言い放った。
「悪いけどあなたのその運命、このアリシア・メアナイト改めレアノードが握ったから覚悟することね!」
「あ、アリシア…………メアナイトだってぃ!」
 こんどこそ、男の表情(かお)は真白に染まった。
「ま、まさか『凶運の女神(デッド・ラック)』の名で幾多の戦場を恐怖に陥れた、あの戦乙女か!」
 何か、殺伐とした異名や逸話に対し、「戦乙女」という呼称が妙に噛みあってない気がするが……
 そんなウチのささやかな疑問などお構いなしに、アリシアさんが話を続ける。
「まぁ、そんなこともあったかしら。それよりあなた、どの道もう抵抗は出来ないでしょ。降参した方が身のためよ。それとも、魔術とやらが使えない状態で(、、、、、、、、、、、、、)抵抗してみる?」
「なっ!」
 ウチと男の驚愕の声が折り重なった。それぞれ意味合いは違っているだろうが。
「なぜ、あんたがそれを……」
「どうやら図星ね」
 してやったりとアリシアさん。どうも、ただのカマかけだったようだ。それに気づいて、男も苦虫を噛み潰す顔でそっぽを向くが、もう遅い。
「おそらく、その腕の刺青……それが『呪印』と呼ばれる視覚信号の役割を担っているとみたわね。聞きかじった程度の知識だけど、たしか魔道学だったかしら。この地上から天上の星々に至るまで、あらゆる空間には動植物と同じく生命が宿っていて超然的な意識が潜在しているらしいんだけど、ある種の意味を含む信号を送ることでその潜在意識に働きかけることが出来るみたい。それを使って精霊洞(コクーン・ホール)の中であなた達の言う『魔術』を制御するための場を生みだし、呪文を唱えることで精霊石が反応して『力』が発生する。あとは、それを意のままに操るだけってトコね。まぁあたしみたいな素人からすれば、それはそれでファンタジーにしか思えないけどね」
 一息つくように、肩を竦める彼女。「でも」と男の方、より正確にはその斬られた右腕に眼をやりながら、
「魔道学の理論はこうして実証されている(、、、、、、、、、、、)わけだし……その刺青は、もう使い物にはならないわね。精霊石が暴走気味に反応したのも、それが原因のようだし」
 つまり、刺青に傷が付いたことによってそれまで生み出されていた「場」が消滅し、精霊石の音に反応する性質が災いして男の上げた絶叫に過剰反応を起こしたという理由か。てことは――
 ここって、実は結構危ない場所なのではなかろうか?
 しかして、ウチが思案する間もなく、アリシアさんは男に剣の切っ先を向けたまま尋問を始める。
「さってと、今度こそあなたの所属する組織『魔天の祈り(サリー・ミッション)』の目的、それからここに眠るお宝について、洗いざらい吐いて貰おうかしら?」
「て、なんであんたがそこまで知って……まさか、はなっから組織の尻尾をつかもうとしてぃ?」
「あのねぇ、あたしはあくまでフリーの傭兵よ。あの子じゃあるまいし、賞金稼ぎみたいな真似はしないわ。この辺で有名な組織と言えば、あそこくらいでしょう。それだけの理由よ」
 またしても、カマかけだった。
「で、目的は?」
「ふん、そんなもの……」
 男が言いかけたその時だった。
「兄さん!」
 背後から、その場違いな男の声が上がったのは。


さるのちょこっと修正……orz
「あ、それはね。この子――『~」の部分を、
「あ、それはね」と彼女~みせる。<改行>「この子『~」にしてみました。
 あと、細かい部分をちょろっと(って、推敲不足……il|li_| ̄|○il|li)

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