血塗られた封印の城 第三章(12)
「ルーシーさん……」
食堂から北校舎へと続く渡り廊下を歩いていたルーシアは、後ろから掛けられた声に足を止める。
舞うように横なぎに揺れるツインテール。その視線の先には、長い黒髪を後ろで束ねた青眼の少女。
端正だが無表情でどこか掴みどころのない不透明な印象の彼女だが、背中に差した一振りの木刀が異彩を放っている。
ルーシアは、その声の主に気軽に返事する。
「あ、エレジア。これから行くとこ?」
「ええ……ルーシーさんも、行く……でしょ?」
「うん、そのつもり」
屈託のない笑顔で答えるルーシア。
一晩供に過ごして以来、二人の間には友情――というより、信頼にも似た絆の様なもの――が生まれていた。
「ところで……」とエレジアが再び口を開く。
「マリーナは?」
「あ……うん……」
ルーシアは、それまでの元気な顔から一変して、少し気落ちした様子でそれに答える。
「ちょっと、今日は調子が悪いみたい」
「そう……」
いつもは余り感情が面に表れないエレジアは、しかしこの時は珍しく少し寂しそうに俯く。と、ちょうどそこで魔道学室の扉の前に着く二人。扉を開けると、そこには珍しい光景があった。
「エレジア、とレイナードも一緒か。レイナード、あれからウィンハルトの様子はどうだ?」
何故か始業前に教壇に寄りかかっていた不良教師が、挨拶がてらに話しかけてきた。
「それが、会長さん3時限目からまた調子悪くなったみたいで……」
「そうか……」
それだけ訊くと、その教師――ヨハネハイムは黙り込んだまま腕を組む。窓辺の方を見ると、これまた珍しくカールス・ヒューラーが席に着いていた。
だがそこに、今一人の生徒――アドル・ゲルシュタイナーの姿はなかった。
静かな、窓一つない薄暗い地下室。
壁に並んだキャンドルの燈る火だけが、闇を照らす唯一つの灯りとなっていた。
中央に坐した少女の蒼い瞳には、微かに脅えの色が混じっていた。だが、彼女はそれを払いのけようと目を瞑り、唇を強く噛みしめる。
ここに来る前、言われた通り用務員用のシャワーを浴びて身を清め、今は漆黒のフードに身を包んでいる。
鮮やかな金髪までも覆い隠した少女の姿は、部屋の雰囲気も相まって、
これから何かの儀式でも始めるかの様に、じっとそこに佇む少女。
「いい、始めるわよ?」
正面から、女の声が聞こえた。その手に持った小壺の栓をつまむ白く長い指。
「はい」
静粛に、その言葉を受け入れる少女。
かの月 紅く染まりし夜
その聖夜の訪れに備え 汝が魂 誇り高き王に奉げん
天より堕とされたし明け星の その光に清められ
願わくば かの王と交わり 汝が
紡がれた言葉が終わると共に、女の手が小壺の栓を一気に抜いた。
そこからたちどころに紅い煙が広がり――
煙の中で、少女の意識は闇へと堕ちた。