血塗られた封印の城 第三章(5)


「理事長、ご無事で何よりです」
 理事長室の扉を開けた先で彼を待っていたのは、学園長シャルロの出迎えだった。
 昨夜の事件については彼女自身も少なからず関っていたためか、責任を感じて彼が到着するまで待機していたようだ。
「やあ学園長、心配を掛けて申し訳ない」
「いいえ私があの時、理事長をお引止めしていればこのようなことには」
「貴女が気に病むことではない。私があの時、帰ると言ったのだから。そのために、取り返しのつかないことになってしまった」
 そう言ったのは、彼を送っていた御者のことだ。しかしシャルロは首を振り、
「彼に理事長をお送りするように申し付けたのは、この私です。ですから、お気になさらないで下さい」
 そうでも言わないと、彼女自身の気持ちが治まらないのだろう。そう察してか、彼はただ目を閉じて沈黙する。と、そこへ扉の向こうから2回ノックする音が聞こえてきた。
「失礼いたします」
 開いた扉から、規則正しい音を立てて入ってくる中年の男。
「アイザック」
「が……学園長……も、お出ででしたか………」
「私がいたら不満なのかしら?」
 ドア付近で明らさまに顔を引きつらせているアイザックに、容赦ないシャルロの皮肉が浴びせられる。
「い、いえ……むしろ、学園長にもご同席頂いた方がよろしいかと」
「何ですか? はっきり仰いなさい」
「いえその……理事長と学園長にお客様が見えております」
「客人とは珍しい……もしや、警官かね?」
 理事長の質問に、アイザックは難しい顔をして首を横に振る。
「それが……『学会』の方のようです」
「何ですって!」
「学会」という言葉に、驚きを露(あらわ)にするシャルロ。
 何でまた、それもこのタイミングで?
 昨夜の一件と何か関係が? それとも、別件なのか?
 シャルロの脳裏に様々な疑問が浮び上がる。
「何人かね?」
 理事長が尋ねる。
「男女の2人組みです」
「名前は?」
「はい、女性の方はベルダルク様と名乗られてます」
「もう一人の男の方は?」
と、シャルロが重ねて聞く。
「それが、もう一人はまだ少年でして……」
「少年?」
 彼女がオウム返しに聞き返すと、アイザックは眉をひそめて、
「はい、見た目はまだ10代前半ぐらいで、白髪と言いますかいわゆる白金の髪(プラチナブロンド)で、サンドーラ様と名乗られてます」
「サンドーラと?」
 理事長はその名を聞くと一瞬険しい表情へと変わるが、再び朗らかに笑い、
「解りました。では、お通しなさい」
「はい、畏まりました」
 アイザックが一礼して理事長室を出るのを見計らったかのように、理事長が一言つぶやいた。
「サンドーラ家の千年の子(ミレニアム)か……」